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ネットに流れ出たものは消えません

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「出演するごとに、違約金がとんでもない額になっていきました。それを支払わなければ裁判で負けて本当に支払う羽目になると追い詰められ、最後はAVに出演せざるをえなくなりました」(手記より)

この手記を発表した女性(20代)は、1本のアダルトビデオに出演したが、他の作品の出演を拒んだことで、プロダクション側から違約金2460万円の支払いを求められていました。この損害賠償請求訴訟で東京地裁(原克也裁判長)は、プロダクションの請求を棄却しました。女性の代理人が明らかにしました。

29日、代理人となった伊藤和子弁護士らが東京弁護士会で記者会見。女性の手記も同時に発表しました。「意に反しての出演ならば、即日、契約を解除すれば、違約金を支払う必要はない。同じような被害のある女性がいたら、相談してほしい。安易な誘いにのらないで」と訴えました。

伊藤弁護士によると、この女性は高校生のとき、「タレントに興味はないか?」などとスカウトされ、事務所に所属することになった。保護者の同意もないままだったのです。このときは「アダルトビデオ」といった明示はありません。その後、露出度の高いグラビアの撮影がされました。女性は「なんかおかしいな」とは感じていたものの、契約を詳しくわからなかったため、何も言えませんでした。仕事を選ぶ自由も実質的にはなかったのです。しかも、1円の報酬も支払われていません。

「私は、プロダクションの人たちから、『身内や同級生にはばれない』と言い聞かされていました。『ばれないで済むなら』ということもあって、出演しないという選択肢をあきらめて応じました」(女性の手記より)

女性が成人になったときに、1本のアダルトビデオのために、数回にわたって撮影がなされたのです。「話が違う」と思ったのですが、断ることができませんでした。その後、「アダルトビデオ」の出演が明示された契約書に署名捺印をさせられたというのです。すでにアダルトビデオ出演を強要され、その後も残り9本の作品のため、撮影が続くといった予定を組まれていたのです。

その後、女性は「アダルトビデオ出演はやめさせてほしい」と何度も懇願しましたが、プロダクション側は違約金が発生することや、残りの9本を撮影しないと辞められないと女性を脅迫したのです。「死にたい」とも思った女性は、支援団体に駆け込みました。女性のタレント活動は「一切行わない」とプロダクション側に電話で伝えましたが、プロダクション側は「親にばらすぞ」と脅してきたのです。

原裁判長は、契約は女性がマネージメントを依頼するというものではなく、プロダクション側が決めたアダルトビデオに出演するという、実質的には、雇用契約だったとした上で、「やむを得ない事由」があるときには、契約の解除ができるとしたのです。またアダルトビデオの出演は「出演者の意に反してこれに従事させることが許されない性質のもの」と認めました。そのため、債務不履行にはあたらず、違約金を支払う必要性はない、と結論づけたのです。

伊藤弁護士は「やむを得ない事情があれば、契約を解除できるとした点は評価でき、職安法違反や派遣法違反で、監視の目に晒すことができるようになった。性的業務を強要することは重大な女性への権利侵害。同じように苦しんでいる被害者はたくさんいるのではないか。悪質な強要、違約金の脅しがないためには、法的な規制が必要だ」と述べました。

私はアダルトビデオ業界で働く人たちを知っていますが、ここまで悪質な例は聞いたことがありません。むしろ、関係者からは「女性の出演希望者の面接が多くなっている」などの話は聞いたりしています。一方、スカウト業界側としては、ある女性をスカウトするとき、キャバクラ嬢や風俗嬢、AV女優になれるかどうかを見ます。AV女優の選択となった場合、出演できるジャンルについて選択させたりしています。

スカウト自体が条例で厳しく制限されているために、声をかけるときはナンパを装ったりします。あからさまなスカウト行為は減ってきています。この女性のケースでは、「タレントに興味はないか?」と声をかけられたということです。しかも、女性は、普通のタレントとして売り出してもらうもの、と思っていたようです。プロダクション側はきちんとした説明をせず、契約を結んだのです。

契約内容をきちんと確認してないために、女性側に不利に働いたかもしれません。しかし、未成年者に、親の同意もなしに、タレント活動の契約を結んでいますが、無理があるように思えます。この点は判決では言及されていませんが、民法では、法定代理人の同意がなければ、原則として、未成年者との契約はできず、同意ない場合は、取り消すことができます。

ところで、未成年のときに露出度の高いタレント活動をしていた知人女性もいますが、母親の同意は取っていました。その知人女性は成人になった後、アダルトビデオに出演しましたが、プロダクション側からよく説明され、本人の選択の余地がある中での決意でした。

しかし、不意打ちや強要されたこの女性の場合は違っていました。ブラック企業やブラックバイトの問題が指摘されていますが、アダルトビデオ業界でも社会問題になりつつあります。とはいえ、類似の訴訟はこれまでありません。誇りをもってアダルトビデオ業界で働いている人のためにも、悪質な業者は淘汰されるべきだと思います。

また、この女性は契約が解除されたことで、AV出演しなくても違約金を支払わなくてもよくなりましたが、作品の映像の回収は今後の課題です。

「裁判が終わっても、課題はいっぱいあり、一度でもグーグルの検索結果やネットの動画サイトに流れたものは消えません。忘れたくても忘れることができないのです。私にとって一生つきあっていく問題です」(女性の手記より)

ネット上に流れた映像をすべて消去することは難しい。事件報道の記事などを巡って「忘れられる権利」が話題になることがありますが、こうしたAV作品、しかも意に反した出演の場合も大きな問題なのです。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中
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