「都構想」ではなく、「橋下市政」の信任投票? | NewsCafe

「都構想」ではなく、「橋下市政」の信任投票?

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「大阪都構想」の住民投票は、反対派が賛成派を上回り、否決しました。一部には、20代~60代は賛成が多かったのに、70代以上が反対が多いとの出口調査の結果から、「シルバーデモクラシー」と揶揄されました。しかし、人口比を考えると、70代以上が必ずしも多くはないことから、橋下徹市長への不信任ではないかとの声もあります。

大阪市選挙管理委員会によると、当日の有権者数は210万4076人。投票率は66.83%。2011年の市長選挙(60.92%)を上回りました。

今回の「大阪都構想」をめぐる住民投票は、国内の住民投票の歴史で考えれば、最大規模のものです。それだけでも注目を浴びました。そして、その旗振り役が、橋下徹市長です。メディアで橋下氏を取り上げると、視聴率が上がったり、販売部数が増えたりします。メディアでの消費という意味では、少なくとも「人気」だったのです。そのため、各社は「橋下ネタ」を集めてたという事情もあるようです。「橋下の文字が表紙にあると、売れ行きが違う」(雑誌編集者)と話すほどでした。

出口調査の結果からは、「シルバーデモクラシー」ではないかと、揶揄されました。年代別にみると、朝日新聞と朝日放送の出口査、70歳以上は反対が多かった。20代から60代までは賛成が多かった。70歳以上は無料だった市営地下鉄や市バスを一部有料化するとの話が出ていたためではないかと言われています。

しかし、70代以上の人口比は21.5%。20代と30代をあわせただけでも31.2%で70代以上を上回ります。単純に70代以上の声よりも若年世代を声を重視しようとすれば、できなくはありません。そう考えれば、賛成の有権者が積極的に投票しただけで、若年層全体が、賛成に回っているわけではないのでしょう。

また、本と雑誌のニュースサイト「リテラ」によると、投票日翌日の18日、「朝生ワイド す・またん!」(読売テレビ)で辛坊治郎氏が「一部投票に不正が行われたって話があって」と、根拠もあげずに発言したり、高齢者と生活保護受給者のせいだといわんばかりの発言をしている。

たしかに、大阪市は全国平均から比べると高い。大阪市のデータでは、15年2月現在、全国平均では1.71%、大阪市は5.53%と4倍以上だ。ちなみに、東京都全体では2.21%、東京23区の平均は2.39%で、全国平均よりも高いですが、大阪市の2分の1以下です。最も高い台東区では4.7%で、大阪市よりも下回っています。

仮に70歳以上の高齢者と生活保護受給者を単純に足しても27%。全員が反対したとしても、他の世代と生活保護を受給していない人を足せして、全員が賛成すれば、73%の得票を得ることができた。こうした乱暴な意見まで出てしまっています。

一般にこうした住民投票は、議題となったテーマに関心がある人が投票にいくと言われています。年代別の投票率が発表されていませんが、積極的にいくべき賛成派の若年層の比率が低かったのではないか、と思えますが、年代別の投票率だけで語れるほど、まだ情報がありません。

余談ですが、筆者は自殺問題に関心がありますが、賛否の結果と自殺率との相関はありませんでした。西成区や浪速区は自殺率が高いですが、西成区は反対が多く、浪速区は賛成が多かったのです。一方、西区や港区は自殺率は低いですが、西区は賛成、港区は反対がそれぞれ上回りました。

一方、地域別にみると、もっとわかりやすい結果となっています。最も投票率が低い浪速区で52.8%でしが、他の区は60%を超え、最大では阿倍野区の74%となりました。傾向として、市の中心部で、「北区」となるはずだった地域はその区も賛成が上回りました。一方で、「南区」や「湾岸区」は反対が多かったのです。「中央区」と「東区」は賛否が分かれました。

注目したいのは、どの区でも賛成が6割を超えることはありませんでした。最も賛成が多かった北区でも59.0%でした。一方、反対も6割を超えた区はありません。反対が最大だった大正区でも56.0%でした。僅差の結果から考えれば当然ですが、世論は極端な変化を望まなかったとも言えなくもありません。ただし、いつ投票するかでは大きく変わる結果でもありました。

ただ、全体として都市部が賛成が多い傾向ではありました。

川野英二氏(大阪市立大学)の「貧困地域の社会空間 大阪市の都市貧困問題の分析」によると、2011年11月の大阪市長選挙で、橋下氏への得票率がとりわけ北区、西区、中央区などの市中心部で高かったことが指摘されている。

「オフィス街が集中し、専門管理職等の高い社会改装が居住する地域では、これまで前職である大阪知事時代に生活困窮層や生活保護受給者に厳しく、ラディカルな制度改革を訴える橋下氏の支持率が相対的に高かった」。

今回の住民投票の結果も、川野氏が指摘するのと同様な結果になったのではないだろうか。だとすれば、今回の「都構想」の住民投票は、「都構想」そのものの是非に加えて、橋下市長の手腕の信任投票の面も大きかったではないか、と思えるのです。結果、橋下氏は政界引退を表明しました。周辺部で支持されないことを重くみたのかもしれません。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
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