東日本大震災で、児童70人が死亡、4人が行方不明、10人の教職員が死亡した宮城県石巻市の大川小学校の当日の避難行動などを検証する「事故調査委員会」の6回目の会合が3日に開かれました。すでに出されている「事実情報に関するとりまとめ」をもとに、有識者からの公開ヒアリングが行なわれました。
この「学校事故調査委員会」の検証の範囲は、事前対策、当日の避難行動、そして学校長や市教委の事後対応を含んでいます。もちろん、ここから将来の教訓を引き出すためにも行なわれています。しかし、この日の議論は、震災当日の避難行動の検証はほとんどなく、将来の防災教育のあり方が中心となりました。そのため、傍聴していた遺族からは落胆する声が聞かれました。
事実認定について、有識者の一人、河田恵昭氏(関西大学理事、社会安全研究センター長)は「現場で何が起こっていたかをさらに明らかにすることは不可能。生き残った一人の先生の証言が仮にもっと詳しく得られたとしても、そこから確定的な結果を推論することはできない」と述べました。すでに2年半以上も経っていることもありますが、事実認定は難しいとしました。
もちろん、難しいことは承知で委員会のメンバーはそれを引き受けていることでしょう。委員会としては最後までその努力をしなければなりません。にもかかわらず、議論の中で委員の一人が「私もこれ以上、事実を確定するのは無理だと思う。しかし、確定できなくても、教訓を残すことはできる」と述べました。この段階で、事実認定を諦めているかのような発言がありました。
私はこの発言の真意を聞こうと、記者会見にのぞみましたが、その委員は会見には参加しませんでした。もともと、委員長の室崎益輝氏(関西学院大学総合政策学部都市政策学科教授)は、「会見は委員の自由意志による参加で強制できない」との立場を取っています。全員がそろうことがないかもしれません。
しかし、私はこの発言が気になりました。というのも、当日の避難行動について、これまでの会合では細かな事実が浮き彫りになっていないからです。そして有識者の公開ヒアリングでも、ほとんど議論されませんでした。まだ、遺族との関係が悪化した市教委の調査のほうが、証言等が豊富に公表されています。
そのため、室崎委員長に、「まだ最終報告が出る前の段階で、『事実を確定するのは無理』との意見が委員から出るのはおかしいのではないか」と質問しました。室崎委員長は「教訓となるべき事実はきちんと確定したいと思うし、そのような努力をします」などと述べました。
「教訓となるべき事実」とは一体なんなのか。当日の避難行動をできるだけ詳細に明らかにし、その中から行政が、あるいは個人が教訓となるべきことを引き出すしかないとは思うのですが、「教訓となるべき」範囲を予め設定しているのではないかと思ってしまいます。遺族の一人は「教訓をあらかじめ決めているんだろう」と落胆していました。「これはひどい。3月11日に何が起きたのかを調べるのはこの調査委員会じゃないのか」「大学の授業を聴いているようだった」などの感想が出ていました。
とはいえ、まだ「最終報告」は出ていません。そのため、この問題の当事者や関心がある人が意見を言えるチャンスがあります。調査委員会では、「事実情報に関するとりまとめ」について、(a)追加・修正が必要とされる事実情報やその根拠となる情報、(b)事故の要因や今後の再発防止対策のあり方について、を募集しています。11日必着。メールアドレスは、oics@e-riss.co.jp まで。詳しくは、「大川小学校事故検証委員会」のホームページ( http://www.e-riss.co.jp/oic/ )で。
[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
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