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いじめ防止法

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今回の国会では様々な重要法案がありましたが、そのひとつ「いじめ対策推進基本法」が成立しました。児童生徒等の尊厳を害するとともに、良好な教育環境を損なうために、いじめを禁止すること、また基本理念や国の責務を明らかにすることが目的です。「いじめ防止」に関して法律が出来たことは一歩前進だと思います。しかし、この法律では不十分ではないかと思っています。

立法過程の問題をまずは指摘したいと思います。日本も批准している「子どもの権利条約」では、意見表明権があります。かつて、国連子どもの権利委員会のカープ委員は「子どもは子どもの専門家です」と言っていました。成立を急ぐのはわかりますが、子ども達へのヒアリングは行なったのでしょうか。また、どのくらい反映されたのかといった問題です。特に、いじめは子どもの世界の話です。大人が見えない問題を指摘できる可能性は十分にあります。当事者の意見をどこまで反映できたのかが疑問です。

もっとも気になるのはいじめの定義です。文部科学省は、2006年、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」に変更しました。それ以前は、1)自分より弱い者に対して一方的に、2)身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、3)相手が深刻な苦痛を感じているものーにしていました。たしかに、強い者への攻撃もありますし、継続的ではない場合もある。様々な形がある。その意味では定義そのものが難しいのです。

その中で、同法は第二条でいじめを定義し、「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」としています。素直に読めば、悪口や喧嘩、ネットトラブルも入ってしまう。

また、何らかの嫌がらせに関して、反撃しようとした行為も入ってしまいかねません。発端の嫌がらせが発覚しなければ、反撃した側だけ責め負うこともあります。さらに言えば、「心身の苦痛」をどう判定するのでしょうか。子どもの虐待でもあることですが、被害を受けていても被害を訴えないことがあります。苦痛を訴えると、いじめが悪化するのではないかと思った場合、当事者は苦痛を訴えないかもしれません。"遊び"の中で行なわれるいじめであればどう扱うのだろか。

この上でみてみますと、二十三条の「いじめに対する処置」のうち、「当該学校に在籍する児童等の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるおそれがあるときは直ちに所轄警察署に通報し、適切に、援助を求めなければならない」という部分がひっかかります。「重大な被害」とは誰が判断すべきものなのか、といことです。法律の正当な解釈は別として、現場レベルでは、「重大な被害」がどのくらいのイメージで共有されるものなのでしょうか。判断次第では、「"重大な被害"ではなかった」として隠蔽される懸念も出ています。

もちろん、いじめ問題の解決は本来は、学校などの教育力で解決すべき問題です。そのため、いじめが起きる学校システムにもメスを入れる必要があります。しかし、5条によると、いじめ防止の観点が道徳教育の充実によっています。道徳を諭せば、いじめがおきないという視点です。いじめが起きる学校システムとは何かをきちんと整理する必要がありますが、いじめが起きるか起きないかだけで考えられているものです。そのために、小手先の法律になっています。

だからでしょうか、今回は第三者期間の設置が盛り込まれませんでした。これまでの学校や教育委員会にとって都合の悪いことを排除する可能性、不適切な報告、その事後対応などをもチェックする必要があるのでなはないでしょうか。もちろん、学校や教育委員会が自己検証する必要もあるが、同時に、第三者がチェックしなければならないと思われます。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
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