「自殺対策白書」発表、年間3万人割るも、20歳代増加傾向 | NewsCafe

「自殺対策白書」発表、年間3万人割るも、20歳代増加傾向

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政府は「自殺対策白書(我が国における自殺の概要及び自殺対策の実施状況)」を閣議決定しました。2012年の年間自殺者数は2万7858人で、15年ぶりに3万人を下回りました。バブル崩壊の1998年後に年間自殺者が急増し、以来、3万人台が続いていました。しかし、98年水準になったからといって、自殺の構造がそのまま戻ったわけではありません。若者の自殺が増えているのです。

この白書は、国の既存の統計をもとにしています。警察庁が発表する「自殺統計」や厚生労働省の「人口動態統計」が自殺者数の統計となります。警察庁統計の場合は原則的に発生地ベース、厚生労働省の場合は住所地ベースとなります。動機・原因は警察庁発表ですが、07年以降は三つまであげるようにしたため、それ以前とは単純比較はできません。

年齢別に見てみますと、50歳代の自殺死亡率が2003年をピークに減少傾向にあります。60歳代以上は98年以降、減少傾向にあったこともあり、50歳代以上は、98年の年間自殺者数を下回りました。これは多重債務問題を法的に整備したことが大きな要因としてあげられています。

貸金業規制法の改正で、借入残高が年収の3分の1を超える場合は、新たに借り入れができない「総量規制」がされるようになったのです。これによって自殺の原因・動機で「経済・社会問題」が09年をピークに減少したのです。こうした社会政策による変動は分析として分かりやすいでしょう。

一方、若年層は増加傾向にあります。20歳代は、97年には10万人あたりの自殺者(自殺死亡率)は13.3でしたが、11年は24.3、12年は22.5で、近年にない高水準です。青少年の自殺が国際的にも問題になった「国際児童年」(1979年)ごろと同水準です。30歳代や40歳代もやや減少しているのですが、近年は増加傾向です。

注目される要因に「就職失敗」があります。2007年に自殺統計原票が改正され、自殺の原因・動機は8項目から52項目に増えました。また、それ以前、警察統計で反映される原因・動機は1つだったが、3つまでとなりました。「経済・社会問題」のカテゴリーの中に「就職失敗」があります。

原因・動機は遺書のほか、遺族の証言で判断されます。遺書にはっきりとした動機の記述がある場合もあります。しかし遺書にない場合、証言する遺族や調査する警察官が関心があることがより上位にランクされると推測されます。

どの程度が「就職失敗」と考えられるのでしょうか。「就職ができない」と「希望する企業に入れない」とは大きく違います。また、こうした「就職失敗」が直接的な動機なのか、背景にあるのかという点でも、分析が変わってきます。その意味では、数ある原因・動機のうち、家族や警察にとって「理解可能」な範囲が「就職失敗」だということになるでしょう。

ただ、「勤務問題」を原因・動機とする自殺が20代で上昇しています。07年には、30歳代や40歳代、50歳代よりも少なかったのですが、12年には他の年代を追い抜いて、年齢階級別でトップとなっています。20歳代にとって、就職や勤務に関する要因が大きくなっているようです。「白書」では、一人当たりの業務量が多くなって来ていることを指摘しています。

こうした若者の自殺の問題は、2004年、国連子どもの権利委員会が「締約国が、児童相談所、ソーシャルワーカー、教職員、ヘルスワーカーその他の関連の専門家と協力しながら、若者の自殺およびその原因について詳細な研究を実施し、かつ、その情報を活用して若者の自殺に関する国家的行動計画を策定および実施するよう勧告する」と指摘しています。この頃すでに、20~39歳の死亡原因一位は自殺になっていました。政府はこの勧告を無視し、10年も放置してきたことになります。

ようやく政府は、若者の自殺問題に目を向けました。かつて、ある厚生官僚に取材したところ、「若者はなぜ自殺するのかわからない」と言っていました。その意味では、その一因が分かりはじめたと言えるでしょう。自民党の福祉政策は「自助」「共助」「公助」という順番で考えられています。自殺対策基本法では、「自殺は個人の問題ではない」ことが明記されました。

就職や勤務問題にメスを入れることが若者の自殺を減らす一助になると思われます。もちろん、政治家や官僚では若者の心理を把握しきれない部分があります。だからこそ、当事者が参加し、当事者目線で解決する仕組みづくりが必要なのではないでしょうか。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
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