アガシ化する錦織圭 | NewsCafe

アガシ化する錦織圭

スポーツ ニュース
7日東京有明で行われたテニス、ジャパンオープン。錦織圭は決勝でラオニッチに2-1で勝利。ジャパンオープンがATPツアーとなって、日本人として始めて優勝カップを手にした。「圭はボールをライジングで捉え、リターンもとても上手い。カウンターと速い展開で試合を組み立てる、新時代のアガシのような選手だ」とは準々決勝で敗れた世界6位のベルディヒ。「リターンはアガシの再来」とは準決勝で敗れたバグダディスの弁。敗れた二人は錦織圭をテニス界のカリスマ、アンドレ・アガシに例えた。

▼アガシは世界一のリターナーと言われ、強力なリターンを最大の武器にツアー60勝、4大大会8勝、生涯グランドスラムを達成したスーパースター余りの。ベルディヒもバグダディスも現役時代のアガシと戦っている。特にバグダディスはアガシの写真を寝室の壁に貼って育ち、アガシのテニスを真似して練習したと言う。アガシと体形もテニスのプレースタイルも似ている。圧倒するようなサーブは無いが、バックコートから戦い、ボールを早めに捕らえ、強打する。そしてバックのストレートを打ち抜くチャンスを伺うプレースタイルは似ている。アガシはグランドスラム中は他の選手とは練習しないが、数少ない練習だった。2006年全米オープンで引退を宣言した試合でも2回戦で対戦。アガシと因縁深く、よく知るバグダディスが、スーパースターに例えたのだから、錦織は底知れない強さを持つと言える。

▼エアKなど派手なアクションで沸かした錦織だったが、大きく変化したのは今年から。コーチにブラッド・ギルバートを迎えてからだ。ギルバートの戦術は本にもなった「ウィニング・アグリー(格好悪く勝つ)」。完璧なプレイでの圧勝を目指すのではなく、相手に常にプレッシャーをかけ続ける。そうして相手の弱点をつき、心理戦で優位に立ち、自滅を誘い、負けさせる。アガシはギルバートと出会い、彼の指導でこの戦術をマスターしトップに登った。コーチングにあたり「圭は素晴らしい才能の持ち主。突出したストローカーで、動きも速い。ただ彼の身長では、サービスでポイントを簡単に取ることはできない。長い試合が多くなるのでどの選手よりも身体を強化させる必要がある」と評価した。そのアドバイスに従い錦織は体幹の強化に取り組み、ウイニングアグリーを身につけて行った。全豪ベスト8。五輪ベスト5。着実に力をつけ、10月、東京有明で花開いた。

▼000年日本テニス協会会長に就任した盛田正明氏は、日本人選手と海外選手との余りの実力の差を知り、私財をなげうって「盛田正明テニス基金」を設立。有望なジュニア選手を選抜。アガシらが育った米国・フロリダのニック・ボロテリーアカデミーに派遣し英才教育を受けさせるシステムを作った。その最初の選手の1人が当時13歳の錦織圭だった。錦織は年間1000万にも上る基金の支援を6年受け、08年プロ入りした。その時の記者会見で「基金がなければ今日はない」と言う。また盛田会長は大会に世界トップクラスの選手を呼びレベルを上げって行った。06年以降はフェデラー、フェレール、ナダル、マレーらが優勝。レベルが高くなった大会で日本人の優勝。錦織にとっては栄光へのスタートだが、盛田現名誉会長には長年の努力が実った大会になった。

[ビハインド・ザ・ゲーム/スポーツライター・鳴門怜央]
《NewsCafeコラム》
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