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震災から500日を過ぎた被災地で

社会 ニュース
東日本大震災の発生から500日が過ぎました。
私はここ数日、宮城県石巻市や東松島市を訪れています。その時間の経過とともに、被災地での風景は変化していきます。津波の痕跡はまだ見ることはできますが、意識しなければ、すっかり日常を取り戻しているようにも見えます。

東松島市東名地区の特別養護老人ホーム「不老園」は、松島湾のすぐ側に建てられていました。津波は、松島湾とは反対側からの野蒜(のびる)海岸側から襲いました。海岸から2キロも離れていましたが、施設は飲み込まれたのです。地盤沈下で、その日以来、満潮時になると、正面からのルートは冠水してします。

犠牲者は多く、不老園と併設のグループホーム、デイサービスでの死者・行方不明者は、入所者・利用者では66人、職員は11人でした。不老園では避難中に車ごと流され、偶然木にひっかかった3人だけが助かったのです。

ここも何度か訪れたが、そのたび、焼香をしていました。津波がかぶったものの、施設内の桜が咲いていたのも印象的でした。今月23日に訪れましたが、いまだに正面からのルートは冠水していました。しかし、施設は取り壊され、敷地では測量をしている人がいました。別のルートから行くと、法人の看板とともに献花台がありました。そこで手を合わせました。

石巻市門脇小学校。ここは児童の犠牲者はいませんでしたが、校舎は津波と火災によって校舎が全壊した学校です。11年4月に訪れた時は焼けた車でいっぱいで、7月頃になると、復旧作業をしている自衛隊車両が置かれていました。同日訪れてみると、スポーツ少年団の野球チームが校庭で練習をしていました。

スポ少の野球チームは震災後は、日本製紙の野球場で練習をしていましたが、2週間ほど前から、門脇小の校庭で再開となったのです。コーチをしている佐藤敏男さん(65)によると、着ているユニフォームや、使っている野球道具は全国からの支援だそうです。

「子どもたちが転校してしまたので、人数が減りました。住んでいる仮設住宅などはバラバラで、親の送り迎えも大変です。今は6年生が多いので、6年生の試合が終わる9月以降になると、9人そろわない。メンバーの募集をしていますが、なかなか難しい。他のチームと合併になるかもしれません」

校庭での練習ができるようになり、ようやく「日常」を取り戻したと思いきや、他のチームとの合併話が出て来ています。もちろん、野球よりもサッカーのほうが人気があるというのもあります。しかし、引っ越しにより、練習がしにくくなったというのも一因でしょう。

石巻市大川小学校。24日に訪れると、近くの山際で朝顔の花壇を手入れしている男性がいました。武山安吉さん(57)です。大川小付近の花壇といえば、NPOが企画し、在校生や遺族が中心に手入れをしてきたひまわりがよく知られています。朝顔は誰が育てているのかというと、孫を亡くした人たちが中心になっているといいます。武山さんには孫がいませんが、手伝いたいと思ったようです。

武山さんが当初は毎日、今では週に6日ほどしていることがあります。大川小学校から約6キロ離れた北上川の河口付近にある海水浴場まで行き、行方不明になっている人の骨を探すために、その砂浜を歩いているのです。なぜ、毎日するようになったのでしょうか。それは、自身の両親も津波に飲まれ、なかなか発見されませんでした。しかし、2人とも誰か見つけてくれていたのです。その恩返しの意味を込めているのです。

「最初に探していたときは、形が似ているものがあればすべて骨に見えていました。また、小さな骨は見つかるんです。何かというと、鳥などの骨だったりします。太い骨でも人間のものとは限らず、牛だったりすることもあるんです。(人の骨は)なかなか見つかるものでもないです」

これまでも人骨を見つけたことがあったといいます。ただ、津波の犠牲者ではなく、墓地に埋葬していた人の骨だったのです。この日も数十分歩いていました。すると、武山さんは何かを見つけました。骨のようです。人間の大腿骨付近の骨のようにも見えます。しかし、人間なのか動物なのかははっきりしません。人間の可能性もあるために、警察に届け、DNA鑑定をしてもらうことになりました。「もしこれが誰かの人間だったら、と思うと...」と、うれしそうな表情をしていました。

石巻市、東松島市を訪れたのはほんの僅かな時間です。しかし、そこには様々な人たちの震災500日があったのです。そして、震災だけがその人たち経験だけではなく、人生の通過点でしかないのです。東京を中心としたメディアでは被災地の情報が少なくなってきています。しかし、情報がないこと=被災地は日常を取り戻した、とはならないのです。

※写真は骨を見つける武山さん

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
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