【第十六回:編集後記~Newsスナック】蛍光塗料の星空 | NewsCafe

【第十六回:編集後記~Newsスナック】蛍光塗料の星空

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大学時代に私が住んでいたアパートは、かなりのボロアパートであった。当時で築40年であったと記憶している。

6畳とキッチン3畳と、広さはそこそこあるのだが、風呂がなく、代わりにトイレにシャワーがついていてた。
トイレにシャワーというのが、想像できない方もいらっしゃるかと思うが、文字通り洋式トイレの前のスペースが少し広くなっており、そこにシャワーがついているのである。

お湯はキッチンの湯沸かし器から供給されており、窓を開けずに10分以上連続使用をすると大変に危険であると、大家さんから釘を刺された。
異常なまでにお湯の出が悪く、夏場はともかく、冬場はそれなりの温度のお湯を浴びようと思うと、チョロチョロしか出ない。何度も風邪をひきそうにったものだ。

しかし、家賃3.5万円ながら、そのシャワーの問題と、アパートの隣りに竹やぶがあり、やたらと蚊がいる以外は住み心地は悪くはなかった。
典型的な貧乏学生だった私は、引っ越すお金もなかったので、結局は4年間、そのアパートに住み続けた。

そのアパートの部屋には、もう一つ特徴があった。


天井に夜光塗料で満天の星空が描かれていたのである。

以前の住人が描いたものだと思われる星が天井を覆いつくしていた。位置は適当だか、オリオン座やら北斗七星らしき形に星が配置されている箇所もある。
男性しか住まないようなアパートであったので、描いた住人も男性であろう。なんのつもりでボロアパートの天井に星を描いたのだろう。

これは私の想像なのだが、女性が部屋を訪ねてきた際、それとなく電気を消すための仕掛けとして、この天井の星を使おうと計画し、描いたのではなかろうか。

「実は星が見えるんだよ、この部屋は」などと言いながら、電気を消し暗くした部屋で自然と女性の肩でも抱く作戦だったのではないか。

果たして、その作戦は上手くいったのだろうか?
その作戦が上手くいっていたなら、ボロアパートの天井の星を見ながら、始まりそうな恋を前に、恋人たちはどんな会話をしたのだろう。女性は「素敵ね…」と言ってくれたのだろうか。

確かめる術はなかったが、毎夜その星を見上げながら、私はそんなことを考えていた。

さて、初めて恋人が部屋にきた際に、私は星のことなどすっかり忘れて、おもむろに電気を消した。
星を見つけた恋人から「何これ?あなたがやったの?」と言われ、恥ずかしくて、「これは前の住人が…」と必死に説明した。

彼女は笑って「わかった、わかった」と言っていたけれど、信じてくれたのだろうか。必死に星を描く私を想像して笑っていたのではなかろうか。
「大学時代の彼氏が天井に塗料の星を描いていた」という話を聞いたら、それは私のことかもしれない。

[編集後記~Newsスナック/NewsCafe編集長 長江勝尚]
《NewsCafeコラム》
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