「生きているのが嫌だ、でも生きたい」 | NewsCafe

「生きているのが嫌だ、でも生きたい」

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「生きているのが嫌だ、でも生きたい」

これは私が管理するある掲示板に投稿された内容の一部です。私が自身のホームページを作成したのは1996年です。その時から「生きづらさ」をテーマにしたホームページを作成し、さらに細分化したテーマの掲示板の管理をずっと行っています。その中のひとつに書かれたものがそれでした。

「生きづらさ」という言葉に私が出会ったのは98年の夏ごろです。取材をしていた摂食障害の女性がこの言葉を使いました。その言葉を聞いた時、私は新鮮さと同時に、取材テーマを言葉にさせてくれたと思いました。以来、この感覚を持ったユーザーたちが書き込みをしています。

掲示板はオープンですから、いろいろな年代、いろいろな立場の人が見ていますし、書き込んでいます。強い自殺願望を持っている人から、自殺未遂経験者、自殺を止めたい人、自殺をしたい理由を聞きたい人、様々です。私は時折、その会話に入ったりしています。

あるとき、冒頭の書き込みに対して、「削除依頼」というメールが届きました。書き込みをしたユーザーの親を名乗る人でした。個人情報が含まれているために削除をお願いする、といったものです。通常、書き込みは本人からのみ削除依頼は受け付けます。親や知人を名乗る人、なかには、警察官を名乗る削除依頼も届きますが、いわゆる言論の自由の問題もあります。明らかに名誉毀損するものでないと削除しないことにしています。

ただし、今回は削除をしました。依頼のなかに「名前が書いてあること」が入っていましたが、同姓同名や匿名の可能性もあります。これだけでは削除対象にはしていません。しかし、住所や所属する学校名が入っていました。実在する住所や学校名だったために、削除対象にしました。書き込んだ本人は、初心者だったようで、思わず、個人情報を書き込んでしまったようです。

あなたの子ども、あなたの友人がこうした書き込みをし、仮にあなたが見つけてしまった場合、どのような対応をするのがよいでしょうか。

「生きているのが嫌だ、でも生きたい」といった感覚を持つほどの「何か」があったことに気づいたのです。そのため、もっと心理面に寄り添うことが大切になってきます。

そうした書き込みをする近くの人に対して何ができるでしょうか。私は「死にたい」「自殺したい」と思ったことのある若者たちを取材してきて14年目になります。偶然にも日本の年間自殺者が3万人を超えた年からです。そのため、ホームページやSNS、ツイッターなどを通じて、「取材してほしい」「相談に乗ってほしい」「話を聞いてほしい」といった連絡があります。

最近、「一緒に死んでくれる人が見つかった」とある女子高校生からメールが来ました。こんなとき私は「自殺をするな」とは言いません。もし言うと、「自分は理解されない存在」と思うこともあり、余計に危機的な状況になります。そのため、何度か会っている人には「また会って話がしたいですね」などと返信しています。

結局、この高校生は「死んでくれる」と言った友人が「自殺をしないことにした」ため、自殺を選択しませんでした。話を聞くと、不安はいくつかあります。「将来への希望がないことが怖い」「死ぬとしてもそれが怖い」。ただ、初めて会った時よりは落ち着いていました。以前は「家に帰りたくない」と言っていましたが、今回は「家族は好き」と考え方が変化しているようです。

こうした思春期の悩みには、どんなものでも「対話」に応じてくれる存在がいるのといないのとでは大きく違います。特に「生死」に関して問われても、冗談にせずに、きちんと向き合ってくれる人を探すのかは一つの鍵でしょう。

別の女子高生は、学校の先生に様々な話をすることで、彼女自身の悩みを解決しています。彼女がその先生に話せるようになったのは共通の趣味があったからです。彼女がいろいろな先生に声をかけ、真剣に話をしてくれたのがその先生でした。

向き合ってくれる人がどこにいてもいいと思います。それが親でも友人でも先生でもいいと思います。それがネットの住人でもよいと思います。取材をしていると、「ネットがあったから、今も生きている」「ネットで相談ができたから、今がある」といった話をよく生きます。冒頭のような書き込みがあったとしても、その気持ちを否定せずに、誰かがきちんと聞いてあげることが大切なのです。

もうすぐ3月です。昨年は震災があっために例外的に少なかったのですが、年度末ということもあり、毎年、自殺者が多いのです。自殺未遂者はその十数倍と言われ、「死にたい」と思う人はその何倍もいます。「死にたい」とまでは行かないまでも不安を感じる人はそれよりも多いことでしょう。せめて自分にとって大切な人が、不安に陥ったら、話を聞いてほしい。そう願っています。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
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