紅音ほたるさんの訴えたかったこと | NewsCafe

紅音ほたるさんの訴えたかったこと

社会 ニュース
元AV女優の紅音ほたるさんが8月15日亡くなっていたことがわかりました。32歳という若さでした。最近では、セックスのときにはコンドームをつけるよう啓発する「つかなアカンプロジェクト」という活動もしていました。

私は、ほたるさんとは直接話したことはありません。また、AV作品を見た記憶がありません。存在を意識するようになったのは、AV女優の引退後です。HIVの啓発をしている姿を何度か見たことがあります。私もHIVの啓発活動には関わったことがあるため、よく意識はしていました。

ほたるさんが亡くなる前に出版された「中高生からの ライフ&サバイバルガイド」(松本俊彦・岩室紳也・古川潤哉編、日本評論社)には、「そんなセックス、本当はないんだよ」という原稿を書いています(この本では、私も「生きづらさはどこからくるのか」という記事を寄せています)。

ほたるさんは原稿の中で、「AVは作品(娯楽)なので、ありえないシチュエーションや、反モラル的な場面も登場します。しかし、それは作品の中で世界の出来事です。現実ではありません」と書いています。当たり前のことですが、わざわざ書かなければいけなかったのは、「AVを性の教科書にしている」という話をよく聞くようになったからです。「AV=セックスと思い込んでいる」と。

「AVは作品」であり、「教科書」と思ったことはない私としても、ほたるさんが見聞きした話は、驚きでした。もちろん、「AVのようなセックス」を娯楽として楽しむ人がいることは知っています。しかし、「教科書」としてしまう若者たちが、少なくともほたるさんの周囲、あるいはほたるさんに質問する人には多かったのでしょう。それだけ、性に関する知識が不足し、AVに頼っているということなのでしょう。

「AVを教科書にしている」層が、AVを買っているのか、レンタルしているのか、それともネットの中のサンプル動画などを見ているのか、という詳しいことは原稿には書かれていません。AV作品が売れまくっているという話も聞きませんので、ネットの中のサンプル動画や、ネット視聴ではないかと想像します。

わからないことはネットで検索するのは今は当たり前になっています。そのため、性のことをネットで調べるのは自然なことです。しかし、なぜ、AVを教科書と思ってしまっているのでしょうか。性に関する情報は、学校や家庭で避けられています。学校では生殖に関する授業はありますが、コミュニケーションとしての恋愛やセックスに関しては話し合うことはないのでしょう。しかし、興味は持ちます。そこでネット検索ということなのでしょう。

「AVを教科書」にしていると思われる人の質問が原稿の中に出てきます。

Q:女って無理矢理されるのが好きなんですよねえ!?

A:そんなことないと思いますよ。相手の目を、表情を見て、本当にそうだと思いますか?相手の目を見てください。どうすれば目の前の女性が幸せにな気持ちになれるのか、考えてみてください。無理矢理なんて絶対にダメですよ(一部のそういう好みを持つ相手の場合は別ですが、それでもシッカリと話を聞いてのうえで行うべきです)。
何も聞かずに無理矢理なんて絶対にダメなことですよ!

AV作品の中には「無理矢理」にセックスに持ち込むシーンがあります。最後まで嫌がっている場合もあれば、途中で同意しているかのような状況になる場合もあります。しかし、あくまでのファンタジーであり、娯楽です。ほたるさんは「AVはファンタジー」と強調しています。「無理矢理が好き」というのは認知の歪みです。性犯罪者の中にはそうした考えが強い人がいます。ほたるさんはそうした認知を糾す活動をしていたとも言えます。

「性は自由なものであり、必要なのは相手を思いやる気持ちです。AVを教科書にしてはいけません。でも、別の意味で、教科書が必要だとも思います。男女の身体の仕組みや、その違い、性感染症とその治療、特にHIVに関すること、コンドームの重要性やピルの役割、アフターピルのメリット・デメリット……そうした具体的なことがきちんとまとまっている本や、そうした情報を教えてくれる本や授業がほしいのです」

ほたるさんはこうも書いています。現在は、性暴力や性虐待、デートDVの相談窓口は増えてきました。そうした記事や番組もあります。授業でもそうした話を取り上げることもあるでしょう。その一方で、より良い性とは何か?という情報、授業は多くありません。ほたるさんの訴えは「より良い性」を育む場を作ること、そうしたことが話し合える場をつくることだったのではないでしょうか。
[執筆者:渋井哲也]
《NewsCafeコラム》
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