ロンドン五輪、MVP | NewsCafe

ロンドン五輪、MVP

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26競技、302種目。17日間にわたって行われたロンドン五輪。日本は金メダルこそ7個と期待の半分以下だったが、前半から選手の活躍でメダルラッシュ。最多38個を記録した。

種目別のMVPあげるとすると迷わず女子レスリングだろう。選手にはそれぞれの思いがある。
まずは48kg級小原日登美。旧姓坂本日登美は51kg級で世界選手権6度の優勝。世界に名を馳せた。しかし五輪には女子51kg級は無かった。そこから悲運が始まる。妹が48kgで五輪を目指すために55kg級で挑戦。しかしそこには世界王者吉田沙保里が君臨。アテネ、北京と吉田に阻まれた。欝病になり、どん底を味わい、そのつど引退を図る。しかし妹が引退した48kg級で3度目の挑戦を決意。10、11年の世界選手権で優勝。日本選手権も優勝し初の代表に。そして決勝の晴れ舞台。北京五輪銅メダルの相手に先行を許すが、最後の執念を見せ逆転の優勝。マットに座り込み顔を覆って号泣。悲運の女王が最後に栄光を手にした。挫折して迷える人に勇気を与える金メダルだ。

伊調馨は姉の千春とアテネ、北京で金メダルを目指す。馨は金メダルを連取。しかし千春は両大会とも銀メダル。北京後に引退する。馨は今度は一人でのロンドン五輪挑戦となった。2年間の休養から10年に復帰。3連覇を目指す。これまでのカウンター狙いから、より攻撃的なレスリングに切り替える決意をし、男子代表の練習に飛び込んだ。改めてレスリングを基本から見直す。併せて男子選手に混じり早朝走行、体幹トレもこなす。女子では使いこなせない「ハイクラッチ」と言う高度なタックルや組み手で相手を上からつぶす「がぶり」の技を身につけた。ロンドンの初練習で左足首の靭帯の1本半切断の重傷。スパーリングは1回もせずに出場。しかし身につけた特技で相手を圧倒。完全優勝だった。これで03年から153連勝。「満足いく試合はまだない」と飽くなき追求を求める。無敵の女王はリオでの五輪4連覇の声も聞かれる。

最強女王、吉田沙保里にとって、ロンドン五輪はこれまでにない重圧との戦いになった。今年5月のW杯でロシアの19歳ジョボロワに1590日ぶりに敗れる。無敵のタックルを研究され、返された。これまで絶対だったものが綻びた。本番まで2か月半。不安と緊張が襲う。さらに旗手はメダルが取れないと言う重圧の下で日本選手団旗手の重責も負う。今までは速攻両足タックルで、きれいに勝つのが吉田の美学。しかし今回は返されにくい片足タックルに戦法を切り替え、勝負にこだわった。攻撃的な選手が戦術を変えてまで勝ちに行くのは難しいと言う。これまでの美学を捨て、敢えて勝ちにこだわった。そして伊調と並び日本人初の3連覇を達成。吉田は「大人のレスリングができた。負けを繰り返して人は賢くなる」と言う。五輪、世界選手権12連勝は人類最強の男と言われたカレリンに並ぶ。重圧を克服した女王の快進撃は続く。

この3人の影に隠れたのが72kg級の浜口京子。3大会連続のメダルを目指したが2回戦で無念の敗退。試合後「まだシューズは脱ぎたくない」と言うが34歳の浜口の五輪はロンドンが最後だろう。14歳から20年間、世界の重量級で活躍した実績は賞賛される。

この4人の活躍は日本が世界に誇れるメダリストたちだ。

[ビハインド・ザ・ゲーム/スポーツライター・鳴門怜央]
《NewsCafeコラム》
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