貧困JK報道の炎上について | NewsCafe

貧困JK報道の炎上について

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経済的な理由で進路の選択が難しい高校生について、NHKが番組(8月18日)で取り上げました。小学校5年生のときに両親の離婚を理由に、母子家庭で育った女子高生のことです。しかし、彼女のツイッターが特定されて、経済的に困っているというのに、趣味でお金を使っていると指摘され、炎上しまた。この炎上騒ぎに、自民党の片山さつき議員もツイートしたことで、さらに話題となりました。

 まずは、女子高生が番組内でどう取り上げられたかを振り返りまあす。1)自宅アパートには冷房はなく、夏の暑い時期にはタオルで巻いた保冷剤を首に巻いてしのぐほどの経済的な厳しさがある、2)中学時代にパソコンの授業があったが、パソコンがないためについていけず、キーボードだけを買ってもらった、3)アニメのキャラクターデザインの仕事に就きたいと専門学校に行こうと思ったが、入学金の50万円を工面することが難しいとのことで、進学を諦めたというのです。

 「子どもの貧困」問題は、餓死するほどの「絶対的貧困」ではありません。貧困線(可処分所得の中央値の50%)以下の所得で暮らしている相対的貧困の状態にある子どものことやその生活のことを言います。

 国民生活基礎調査によりますと、最新のデータでは12年現在、貧困線は122万円(名目値)で、相対的貧困率(貧困線に満たない世帯員の割合)は16.1%。子どもの貧困率は16.3%。ひとり親家庭の場合は54.6%となっています。日本では、18歳未満の子どものうち、6人に1人が貧困状態です。なかでもひとり親家庭の子どもは、半数以上が「相対的貧困」にあります。

 NHKの報道では、世帯収入が明らかになっていませんので、この女子高生が、実際にこの「相対的貧困」の状態なのかは不明です。ただ、映像に映し出されているものから、疑いをかけられました。その結果、「趣味に使う以前に貯金して入学金を貯めればいいのではないか」などと指摘されました。

 また、片山議員がまとめサイトからこの問題を取り上げ、「経済的理由で進学でいないなら奨学金等各種政策で支援可能!」「今回政府が導入決めた返済義務のない生姜金やその他の生活支援が適用されるようなケースなのか、事実を調べる意味はあると思います」などとツイートしました。

 もちろん、片山議員の言うように、支援すべき家庭であれば、これまでなぜ支援されなかったのかが問われることになります。背景には教育や福祉の現場でのニーズ把握やケースワークの不在が挙げられるのではないかと思われます。この点、NHKの番組では触れていません。私もこうした問題を取材することがありますが、奨学金を借りて進学する生徒の中には、学校の先生から奨学金のことを聞いた、というケースもあったりします。その場合、進路指導の問題になります。

 NHKでは、「神奈川県では、子どもたちの意見を取り入れて、今後公的な支援策などをまとめたホームページを作成するなどの対策を進めたいとしています」とまとめています。しかし、この女子高生が現行の支援策の範囲に入るのかどうかは述べられていません。情報不足のために、彼女が進学が難しくなった可能性もあります。

 また、ネットで指摘されていたように、趣味にお金を使いすぎている場合は、家計管理の問題になります。たしかに計画性のあるお金の使い方は必要になります。しかし、困っているとしても、その場の欲に負けてしまうこともあります。そこで、社会福祉協議会などでは家庭のやりくりの支援をしています。これは「生活困窮者自立支援相談事業」の一環です。

 仮に、こうした支援事業を受けたとしても、散財してしまう可能性もゼロではありません。その場合は、こうした相談事業だけではなく、例えば、メンタルヘルスの問題になるかもしれません。あるいは、生活全般の指導の対象になるかもしれません。支援の現場の話を聞くと、情報提供やアドバイスだけで、生活を立て直すことが難しい事例がたくさんあります。それまでの生活史の中で形成されたパターンを変えるのは相当な意志と周囲の支えが必要になります。

 番組では、単に現状を伝えただけにとどまりました。片山議員がNHKに説明を求めたということですが、その結果を伝えたツイートによると、NHKの説明は「本件を貧困の典型例として取り上げたのではなく、経済的理由で進学を諦めなくてはいけないということを女子高生本人が実名と顔を出してかかったことが伝えたかった」としています。しかし、NHKとしては、こうした政治家が説明を求めてしまうような報道をしたことに問題を感じている様子はありません。

 NHK側の問題もあります。第一に、番組のもとになった「かながわ子どもの貧困対策会議」のメンバーに、記者自身が関与していることが挙げられます。ホームページを見ると構成員に記者の名前が出てきます。そうであれば、そのことに触れて報道すべきでしょう。しないのは、今回のような炎上騒ぎにならなくても問題があるのではないでしょうか。内規があるのか、公表してほしいものです。

 もう一つ。炎上の対象となった女子高生をどうフォローしているのでしょうか。「実名(今回はハンドルネーム)と顔」を出す報道は、それなりの反響があるものです。その覚悟や意味、そしてリスクをどこまで説明したのでしょうか。また、こうした炎上の場合、NHKとしてはどのようなサポートをするのでしょう。すでにサポートしているかもしれませんが、炎上だけが残ってしまうのであれば、同じような取材を避けてしまう人が増えてしまうのではないでしょうか。このあたりは、NHKはしっかりしてほしいと思います。
[執筆者:渋井哲也]
《NewsCafeコラム》
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