「疑わしきは罰せず」~東電OL殺害事件を考える~ | NewsCafe

「疑わしきは罰せず」~東電OL殺害事件を考える~

社会 ニュース

1997年3月19日、東京都渋谷区円山町のアパートの一階空き部屋で、東京電力東京本社に勤務する女性(39)の遺体が発見されました。死因は絞殺。死亡推定時刻は同8日深夜から翌9日未明にかけて、と言われています。

同年5月20日、警視庁は強盗殺人の容疑で、不法滞在(オーバースティ)をしていて、このアパートの隣のビル4階に住む、ネパール人のゴビンダ・プラザド・マイナリ受刑囚(一審は無罪だったが、控訴審で無期懲役。最高裁で判決確定)を逮捕しました。

この事件は、「東電OL殺害事件」と呼ばれ、事件当時は、容疑者のことよりも被害者の女性に注目が浴びました。昼は東京電力のエリート社員で、夜は売春をしているという二面性が話題となったからです。

ノンフィクション作家の佐野眞一さんは「東電OL殺人事件」(新潮社)を著し、この女性の生い立ちも調べています。また、この事件で注目された「昼はOL、夜は性産業で働く」という女性たちについては、ノンフィクション作家の酒井あゆみさんが「眠らない女 昼はふつうの社会人、夜になると風俗嬢」(幻冬舎)で取り上げました。

この事件は物証はほとんどなく、状況証拠の積み重ねで検察側は有罪を立証した事件でした。被害女性とマイナリ受刑者が接点があったこや、殺害現場の部屋が空き室だったことを知っていたことも、状況証拠の一つでした。

一審判決は「第三者が犯行を及んだ疑いが払拭しきれない」「状況証拠はいずれも反対解釈の余地がある」などとして無罪に。しかし、控訴審では状況証拠によって、マイナリ受刑者を犯人と推定して、無期懲役としました。最高裁では上告を棄却しています。

事件当時、私は長野県で新聞記者をしていました。その頃の世の関心は、同じ年に起きた「神戸連続児童殺傷事件」。いわゆる酒鬼薔薇事件でした。
少年の逮捕は6月でしたが、それ以前から事件の報道されていました。逮捕されたのが中学2年生だったために、同世代の子どもたちが事件をどう捉えたのかを取材していたのです。そのため、前述の書籍「東電OL殺人事件」が話題になるまで、記憶がないくらいの事件でした。

再び、注目を浴びたのはDNA鑑定。無罪の可能性を示す"物証"が出て来たためです。読売新聞のスクープ記事(2011年7月21日付)によりますと、無罪を訴えるマイナリ受刑者が裁判のやり直しを求めていた再審請求審で、東京高検が、被害者の体から採取された精液などのDNA鑑定を行った結果、精液はマイナリ受刑者以外の男性のもので、そのDNA型が殺害現場に残された体毛と一致したことがわかった、というものでした。

この記事に関しては、マイナリ受刑者の弁護団や「無実のゴビンダさんを支える会」も、記事掲載前には知らないことでした。

最近では、殺害された「東電OL」が身近なところで話題ににはなっていましたし、私の書棚に「東電OL殺人事件」があり、毎日のように目にしています。そのため、事件をぼんやりとは覚えていましたが、再審の動きが現実的になるとは思っていませんでした。そのため、記事が出た後に勉強会に出かけ、記憶を蘇らせることができました。

裁判所が再審に積極的になった背景としては、一つは司法改革があげられます。裁判員制度が始まり、分かりやすい証拠の開示が必要になっています。

また、無罪判決が続いたこともあるでしょう。足利事件(1990年5月12日、栃木県足利市で女児が誘拐され殺害された事件。DNAの再鑑定により、菅家利和さんが無罪)や布川事件(1967年8月30日、茨城県利根町布川で、大工が殺害された。再審で目撃証拠などの状況証拠の信用性を否定し、桜井昌司さんと杉山卓男さんが無罪)での無罪判決、また検察の証拠改ざんも影響している可能性があります。

「ゴビンダの人生はあるグループの人々にめちゃくちゃにされたが、同じ国の別のグループの人々によって救われた」──。
マイナリ受刑者の妻や兄が先日来日し、支援者の集会でこう話しました。

再審が認められれば、無罪判決の可能性が高まります。担当する裁判長は、狭山事件、布川事件の再審を担当していました。その後、別の裁判長になっても、積極的な証拠開示の姿勢を示しています。現在の裁判長も基本姿勢は同じで、結果、DNA鑑定に至りました。

一審での有罪率は9割を超える日本の司法の中で、無罪判決を下すのはとても勇気がいることです。しかし、近代司法の原則「疑わしきは罰せず」(=疑わしくても、明白な証拠がない時は被告人の利益になるように)を裁判所自らが実践してほしいと思います。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://foomii.com/mobile/00022)を配信中]
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