市橋達也被告の公判より ~市橋援護の女性たち~ | NewsCafe

市橋達也被告の公判より ~市橋援護の女性たち~

社会 ニュース
2007年3月、千葉県市川市内で、イギリス人の英会話学校講師・リンゼイ・アン・ホーカーさん(当時22歳)が遺体で発見された事件で、指名手配されていた市橋達也被告が09年11月、事件発生時から2年半経って、逮捕されました。現在は、千葉地裁での公判が開かれています。

逮捕容疑は殺人と強姦、死体遺棄。当初、千葉県警の調べに対して、食事をとらず、黙秘を続けていました。しかし、次第に、リンゼイさんの死に関与したことを認める供述をするようになりました。公判では、殺害に至るまでの詳細な事実について証言をしています。

たとえば、自宅で性的暴行を加えたことや手足を縛って監禁したこと、また、リンゼイさんが「帰りたい」と騒ぎだしたために、声が出ないように首を絞めたことも認めています。帰さない理由について、「殴った目の下が黒くなり、帰したらルームメイトらが問題にすると思った」と話しました。
事件をめぐっては、当初から市橋被告を応援する人たちが現れた。SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)のひとつ・mixiでも、「市橋達也さんを応援するコミュニティ」が逮捕直前に出来ました。GREEでも「市橋達也容疑者」というコミュニティがあり、市橋被告を応援する人たちが書き込んでいました。
一方で、両SNSともに、市橋被告を応援するコミュニティへの反感を持つ人たちのコミュニティができたり、市橋被告を糾弾するコミュニティが開設されました。こうしたコミュニティでは両方の立場のユーザーが議論する場合もあります。

現在では、コミュニティでの書き込みは沈静化しています。しかし、当初は、「なぜ、市橋を擁護するのか」といった視点で、ネットや週刊誌でも話題になったほどです。
市橋被告のファンにはいくつかに分類されます。「市橋萌え」と呼ばれ、被告をアイドルと見立て、ファンクラブまで結成してしまう人たちです。被告の指名手配写真や逮捕・連行時の映像を見て、被告を「イケメン」と思い、「惚れた!」「愛してる!」との書き込むのです。もちろん、被害者側には全く立っていないため、多くのネットユーザーからは反発されたのです。

こうした被告が「イケメン」かどうかで、ネットの反応が変わることがあります。04年3月、男(当時25歳)がチャットで知り合った無職の少女(当時19歳)を監禁した事件でも、似たようなことが起きました。

男は、同様の事件で保護観察中だったこと、チャットではネカマ(=ネットで女性を装うこと)だったこと、アダルトゲームが約千本押収されたことで話題になりました。さらに、男が「イケメンだ」の評判や、漫画「テニスの王子様」の主人公と逮捕時の服装が同じだったこと、中学時代のあだ名が「王子」だったことで、「監禁王子」とも呼ばれました。
そのため、「イケメン無罪」ともてはやしたユーザーがいたのです。それに反応した他のユーザーたちが、「抱いて!」「殴って!」と、被害者のことを考慮せずに、叫ぶ人たちも現れ、ファンサイトもできました。
ファンができる理由に、もう一つは、マスコミ不信によるものです。ネットではマスコミを「マスゴミ」と称することがあります。こうしたマスコミ不信の背景には、マスコミ内部の不祥事や記者クラブの排他的体質などが上げられます。
こうした人たちは、マスコミやその情報源となっている警察がグルになって市橋被告を悪者に仕立てている、と見ているようです。しかし、証拠や根拠、洞察があっての批判ではなく、あくまで印象によるものです。
私はかつて、市橋ファンを取材したことがあります。先ほどの2つのグループとは違って、事件がなぜ起きたのかを「推理」をしている人がいるのですが、Hさん(20代前半)は、その1人でした。

なぜHさんは市橋被告を応援しようと思ったのか。

「最初は特別関心を持ちませんでした。でも、市橋被告が逃亡中に整形したというニュースを見て、『どうしてそこまでして逃げるのか』と思って、ネットで調べてみたんです」

調べていくと、Hさんはあることに気がつく。まずは、ニュースの情報源が警察であることだ。事件報道のニュースソースは、警察情報であることは、マスコミ関係者であれば普通のことです。しかし、Hさんはこれまで、そうしたことを知らずに過ごしていた。

「えん罪の可能性があるんじゃないかと思ったんです。私は警察が信じられないんです。なぜなら、以前、強盗に遭ったことがあるんです。でも、誘導尋問でなかったことにされてしまったんです。監視カメラにも映っていたのに、私が嘘をついていることにされたんです」

こうした経験が警察を信用できなくしている。また、リンゼイさんが市橋被告と仲良くしている映像を目にする。それを見て、友達以上の仲だと感じつつも、違和感を抱き、ある考えに至った。
「私はキャバクラ嬢をしていたことがあるんですが、(キャバクラ嬢は)男性客をいくらでも騙されると思う。その立場からみると、英語講師をしていたリンゼイさんも市橋被告に似たようなことをしていたんじゃないか」
と推理し、mixiで「減刑嘆願署名」を呼びかけました。ただし。他のユーザーからのバッシングもあり、署名活動は中止しました。

「その後、話し合って、心の中で応援することにしよう」

ということになったといいます。

もちろん、「推理」通りであれば、被告にも同情の余地が出てきます。事件が起きた背景を考えることは大切です。その意味では、Hさんに私は共感的です。単に、犯人が悪いというのではなく、犯行までに何があったのかを考えることは、事件をよりよく知り、単純化したモノの見方を脱することができます。しかし、推理は経験からの推測で、やはり根拠があるわけではありません。
こうした"犯罪者への同情や共感"はこれまでもありました。事件を考える時に、なぜ加害行為が起きたのかを考える必要があり、そのプロセスで共感的になり、身内であるかのように、時として恋人として扱うなど、自分事として考えることもかもしれません。しかし、事件には被害者がいる、ということを頭に入れておく必要があります。理由はともかく、殺害してしまえば、被害者は二度と帰ってこないのですから。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://foomii.com/mobile/00022)を配信中]
《NewsCafeコラム》
page top